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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)1624号 判決

原告

西川勝太郎

納谷信太郎

西川コンクリート株式会社

右代表者

西川康久

右原告ら訴訟代理人弁護士

松本才喜

右輔佐人弁理士

熊谷福一

被告

株式会社内田機械製作所

右代表者

内田勝雄

被告

長門石材株式会社

右代表者

柳井雄三郎

右被告ら訴訟代理人弁護士

綱取孝治

外一名

右輔佐人弁理士

小山欽造

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の申立〈略〉

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告らの権利

原告西川勝太郎、同納谷信太郎は、左記(一)、(二)の特許権の共有者であり、原告西川コンクリート株式会社は、原告西川、同納谷から本件甲、乙特許権の独占的通常実施権の付与を受けた通常実施権者である。

(一) 甲特許権

発明の名称 セメント成形品の製造装置

出願年月日 昭和四一年一月三一日

出願公告年月日 昭和四七年一二月五日

出願公告番号 昭四七―四八二五二

特許登録年月日 昭和四八年九月二〇日

特許番号 第七〇四三五四号

〈中略〉

(二) 乙特許権

発明の名称 自動研磨機

出願年月日 昭和四二年二月二〇日

出願公告年月日 昭和四六年一〇月二八日

出願公告番号 昭四六―三六七九七

特許登録年月日 昭和四七年五月一二日

特許番号 第六四四四〇三号

〈中略〉

二、被告らの答弁及び主張

1  請求原因事実の認否〈省略〉

2  主張

(一) 本件甲特許発明と第一物件との対比

(1) 構成上の対比〈省略〉

(2) 作用効果の対比

第一物件は、本件甲特許発明と右のとおりその構成を異にする結果、作用効果のうえでも、次のような相違を生じる。すなわち、

(イ) 本件甲特許発明では、油圧シリンダにより押型を下降させ、枠体内にある素材をプレスして成形品を作つた後、先ず押型のみを上昇させ、次いで作動杵により枠体を押型の下まで押上げたうえ、枠体と支持台との間に受板を挿入し、次に枠体を更に上昇させて押型を枠体内に相対的に深く進入させて成形品を受板上に落下させ、受板を移動させて成形品を取出すのに対し、第一物件では、押型13を油圧シリンダ2により枠体7内に押込んで枠体内に充填した素材をプレスした後、押型13、枠体7、成形品を一緒に上昇させ、次いで受板14を枠体7の下方に挿入し、さらに昇降シリンダ5に送油して支承枠4を介して枠体7を引上げ、押型13を相対的に枠体7内に進入させて成形品を受板14上に押出し、受板14を移動させて成形品を取出するのである。

(ロ) 第一物件は、本件甲特許発明のようにプレス後の押型の上昇と枠体の上昇とを別々に行うのでなく押型13と枠体7とを一緒に上昇させるから、本件甲特許発明に比べ作業時間の無駄がない。

(ハ) 本件甲特許発明においては、成形品を持ち上げる力が、枠体と成形品の側端面との摩擦力のみであるが、第一物件では、右のような摩擦力だけでなく、押型13が枠体7の上部を塞ぐことにより生じる真空力及び成形品と押型13との付着力との総和が成形品を持ち上げるから、成形品が自重のため変形したり受板14進入前に枠体7から落下したりすることが絶無である。

〈後略〉

理由

一原告西川、同納谷が本件甲、乙各特許権の共有者であること、右各特許発明の特許請求の範囲の記載が原告ら主張のとおりであること、及び被告内田機械が第一、第二の物件を各一台製造販売し、同長門石材が右各物件を使用していることはいずれも当事者間に争いがない。

二そこで、まず第一物件が本件甲特許発明の技術的範囲に属するかどうかについて検討する。

1  本件甲特許発明の特許請求の範囲の記載によれば、本件甲特許発明は、次の構成要件からなる素材の投入、成形から脱型までの一連の工程を一定個所で連続的に行い得るようにしたセメント成形品の製造装置であると認められる。

A  基台の下方に作動杆を設け、その作動杆で上下作動体を上下動可能に作動させるようにしてあること。

B  基台の上方に設けた支持台に弾性を有する支承板を設けて、この上に枠体を載置すること。

C  上下作動体に設けた支承杆で枠体の側縁を押上げ可能に支承すること。

D  基台の上方に、加圧装置を備えた保持体を移動調節可能に位置させること。

E  保持体に設けた案内杆を枠体の通孔に貫通可能にすること。

F  支承杆により押上げられた枠体の下方に間隙が生ずると受板が進出して脱型された成形品を取出し得るようにすること。

G  支持台の下位に振動体を設けること。

しかして、本件甲特許公報によれば、右A及びCでいう上下作動体とは、作動杆によつて上下動可能に作動させられるものであり、且つ、それに支承杆が設けてあるので、素材が加圧された後作動杆によつて上下作動体を通じて支承杆が上昇すると、その支承杆が枠体の両側縁を押上げて脱型が行われ、作動杆によつて上下作動体が下降させられると、支承杆も下降するので、上方に押上げられていた枠体は支持台上の支承板上に下降して旧位置に復帰するというような作用をするものをいうものであることが認められる。

2  そこで本件甲特許発明と第一物件とを比較してみると、

(一)  第一物件において素材の投入、加圧及び成品の脱型を行わしめるために枠体を上下動させるものは昇降シリンダー5、支承枠4、溝形枠案内6であり、従つて本件甲特許発明における上下作動体及び上下作動体に設けた支承杆に相当するものは、支承枠4及び溝型枠案内6であると認められるところ、第一物件においては右支承枠及び溝型枠案内は、基台9の下方ではなくてその上方に設けられており、また支承杆及び溝型枠案内は、枠体7の側縁を押上げ可能にではなく、引上げ可能に支承しているから、第一物件は本件甲特許発明の前記構成要件A及びCを充足しない。

原告らは、第一物件は一見本件甲特許発明の構成要件Cを充足しないかのようであるが、両者の相違は当業者であれば容易に推考し得る単なる設計上の微差にすぎないから第一物件は本件甲特許発明の技術的範囲に属する旨の主張をするが、〈証拠〉を総合すると両者の間には被告らが主張(第二、二、2、(一)、(2)、(イ)ないし(ハ))するような作用効果上の差異があるものと認められるから右のような相違は単なる設計上の微差にすぎないものということはできない。原告らの主張は理由がない。

(二)  本件甲特許発明でいう保特体とは、加圧装置を備えたものであり(構成要件D参照)、本件甲特許公報(甲第二号証)記載の実施例に即していえば押型11を保持するものをいうものであるところ、第一物件において押型13を保持するものはシリンダーヘツド13であり、そのシリンダーヘツド13には本件甲特許発明でいうような案内杆は設けられておらず、従つてまたそれが枠体の通孔に貫通可能にしてあるということもない。

右のように第一物件は、本件甲特許発明の構成要件Eをも充足しない。

3  以上のとおり第一物件は、本件甲特許発明の構成要件A、C及びEを充足しないから、その技術的範囲に属しない。

三次に、第二物件が本件乙特許発明の技術的範囲に属するかどうかについて検討する。

1  前記当事者間に争いのない本件乙特許発明の特許請求の範囲の記載によれば、本件乙特許発明は、次の構成要件からなる自動研磨機であると認められる。

A  機体の中央に主軸を設け、その主軸に大歯車と回動盤とを、それが間欠的に回動させられるように軸装すること。

B  回動盤に形成した支持縁を機体に設けた受縁に摺動可能に係合させること。

C  大歯車と回動盤とにその中心より外方に且つ等間隔になるように、また上下動可能になるようにシヤフトを軸装すること。

D  シヤフトの上部に被研磨物を載置する受体を設けること。

E  シヤフトの下方途中に設けた接触輪を、機体にシヤフトと同数設けた回転体に順次接触するようにし、機体の上方にシヤフトの数より少なく、駆動機構を介して回転する砥石を設け、砥石の中心を受体の中心と外ずれた位置で順次対応させること。

F  シヤフトを砥石と逆回転するようにすること。

G  シヤフトを昇降装置で押上げて受体に載置した被研磨物を砥石に当接させて研磨するようにすること。

2  そこで、本件乙特許発明と第二物件とを対比検討する。

(一)  本件乙特許発明の構成要件Bは、「回動盤に形成した支持縁を機体に設けた受縁に摺動可能に係合させること」であるが、第二物件では、受縁に該当するものがない。原告は第二物件における「回動盤4の外周縁を排水溝に係合させること」を右Bに相当する構造であると主張するが、別紙第二目録の記載自体からみてその主張の当らないことは明らかである。

してみると、結局第二物件は、本件乙特許発明の構成要件Bを充足しない。

(二)  また本件乙特許発明の構成要件Fは「シヤフトを砥石と逆回転するようにすること」であるのに対し、第二物件では、シヤフト5と砥石10とを第一の位置では正回転、第二、第三の位置では逆回転させる構造である点で両者は異なる。そして第二物件が右のような構造をとつたことによつて本件乙特許発明の構成によつては期待することのできない被告主張の作用効果すなわちツヤフト5と砥石10とを第一の位置で正回転させることによつて被研磨物6の粗大粒子と荒砥石との強い噛合いを避けて被研磨物粒子の剥離を防止し得るであろうことは、弁論の全趣旨により容易に推認し得るところである。

従つて第二物件は右構成要件Fを具備しないものといわなければならない。

3  以上の次第であるから、第二物件は本件乙特許発明の技術的範囲に属しない。

四よつて、第一、第二物件がそれぞれ本件甲、乙各特許発明の技術的範囲に属することを前提とする原告らの本訴各請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(高林克己 清永利亮 塚田渥)

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